简介
美しい音楽……そんな抽象的な言葉をどのように捕らえるかは人それぞれ。しかし、popo が奏でる温かくも愛らしく、そして恐ろしく純化された響きを耳にしたとき、きっと貴方が脳裏に浮かべていた“美しい音楽" とは異なる何かを感じとることだろう。これは高尚なものでもなければ、巧妙な計算によって精緻に編み上げられたものでもない。ここにある世界中の音楽を貴賤なく愛する酔いどれ3人のアイコンタクトによって紡がれた旋律は、日常の横に寄り添うような親和性を持っているにも関わらず、手の届かない神聖な美しさを湛えていたりする、この不思議。牧歌的でありながら静かな熱情に満たされたファースト・アルバム『kibito』から早3年、音の枠組みは変わることはないけれど、セカンド・アルバム『macadamia』の音のひとつひとつは、前作よりも透明度を増した、“純音楽" と呼ぶにふさわしい圧倒的な世界となって広がっている……って、ちょっと力が入りすぎか? 日常は陶芸家として過ごし、夏場は数々のレゲエバンドでの客演でも知られるオルガン奏者・喜多村朋太、自身が主宰するアキビンオオケストラでの空き瓶吹奏をはじめ、宇波拓とのHOSE やまんが道等での活動でも知られる異能トランペット奏者・江崎將史、ウリチパン郡やテニスコーツでの客演、そしてチープな電子楽器ベースでのソロ等々で活動の幅を広げつつあるクリアなトランペット奏者・山本信記から成るpopo。軽やかな裏打ちでステップを刻むオルガン、そして個性の大きく異なる2つのトランペットが付かず離れず旋律を編み込む。ときおりトランペットがモノシンセやリコーダーとなって色を変えることもあるけれど、“コード・バッキングと単旋律×2” という枠が大きく変わることはない。ただ、そんなシンプルな構造にも関わらず、なぜかしら聴く者に「何かが足りない」と思わせることがない。たとえば、彼らの音に対峙したUS インディのスマイル・アイコン、ジャド・フェアは、それを“結婚式の歓びのよう" と称し、氏と帯同して来日したランバー・ロブは、“パーフェクト・ミュージック! " と興奮気味に叫び、トータスの頭脳ジョン・マッケンタイアは、彼らの演奏中に“このアルバムが欲しい!”と詰め寄った。もちろん、そんな優れた音楽家たちだけでなく、音楽に対してまったくの先入観を持たない幼い子供たちが、popo の音楽に合わせて自由気ままに体を動かし始める瞬間を私はこの目で何度も見ている。とにかく、彼らの音は、聴き手の心の最も幸せな部分に直接コネクトするような、得体の知れぬ力を持っているのだ。 その“力” とは、隙間だらけの音の隙間部分を聴き手が補間するという曖昧さから生まれているのだとずっと思っていた。しかし、ついに産み落とされたセカンド・アルバム『macadamia』を聴けば、それがちょっとした誤解なんじゃないかと思わずにはいられない。裏話になるが、本作の最初の録音が行なわれたのは、今から2年近く前、それが今ようやくリリースされるには、かなりの紆余曲折を経たという事実があるわけだが、それはそれ。とにかく、多くの時間をかけて丁寧にブラッシュアップされた結果として、“演奏されている音以外何も聴こえてこない” 極端なアルバムがここに完成、そして、聴き手は、その生々しいまでの音と音の摩擦によって、鼓膜が震えること自体が快楽であることにあらためて気付かされるだろう。 実は、今現在(2009年7月)のpopo は、このアルバムとも異なる方向へと牛の歩みで突き進んでいるのだが、それはまた別の機会に。何はともあれ、この美しくも身近な音を、できることならば世の中にいるすべての人に聴いてもらいたい、そう望むだけだ。